アシガール8話。
唯が若君に、
「若君が鐘ヶ江のところに行くのやだ、いやなのだ!」
と訴えたあとの、二人のやりとりの場面。
若君「鐘ヶ江の姫に合うたのは、人違いだとそう伝えるために参っただけじゃ」
唯「人違い?」
若君「だからもう泣くな」
唯「でも...」
若君「兄上のことは...考えておる」
この、唯が「でも...」の後に何かを言おうとしましたが、若君はそれを遮るように、すぐに、
「兄上のことは...考えておる」
と返しました。
このセリフ、どう考えても、唯の「でも」に対する応答でないように感じますよね。
それまで鐘ヶ江の姫のことを話していたのに、唯が突然「でも兄上さまは?」と聞くのは不自然です。
そもそも「でも」という言葉自体、前の事柄について反論などをするときに用いる言葉です。
だから唯は、若君の、
「鐘ヶ江の姫に合うたのは、人違いだとそう伝えるために参っただけじゃ」
に、何か反論したかったのだと思います。
ちなみに、唯が「でも...」の後に言いたかったことについて、「唯が「でも...」の後に唯が言おうとした言葉」にまとめており、以下の考察の前提になるので、まだ読まれていない方はそちらを先にご覧ください。
ということで、若君の「兄のことは考えておる」の本当の理由を探ってみます。
仮に、若君が唯の「でも」のあとのすべての言葉を聞いてしまったら、若君は一体なんと答えたのでしょう。
若君は、この時点で唯があと少ししか戦国の世にいられないことを知っています。
そして、若君が阿湖姫との婚儀を延ばした理由のひとつは、唯を想ってのことでしょう。
唯と、残された時間を大切にしようと。
この状況で、唯に「でも...婚儀を延期したんじゃ...」と聞かれたら、普通なら、
「お前との残された時間を大切にしたい。
実はお前はもう戦国の世に二度と戻ってこれないのじゃ...」
と伝えるべきところですが、唯は戦国にまた戻れると信じて平成に戻るつもりでいます。
だから、若君は本当のことは絶対答えないはずです。
もし本当のことを言ってしまえば、唯が、
「もう平成には帰りません!」
と言うのは分かっているので、若君と唯の両親との約束、「唯は次の満月で必ずお返し致す」も果たせなくなりますよね。
かといって、それ以外の都合のいい言い訳も思いつかない。
つまり、若君が言葉を遮って、あえて兄上のことを話し始めたのは、自分の心にしまっている大切なことを、唯に話したくなかったからでしょう。
そう考えると、鐘ヶ江の姫に会いに行ったことを唯に告げる前、少し間が空いたのは、若君が唯に阿湖姫との婚儀を延ばしたことを聞かれるのではないかと、少し躊躇いがあったのかもしれません。
それでも唯に人違いであることを伝えたのは、自分が鐘ヶ江の姫に会ったことで唯を悲しませてしまったからでしょうか。
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